遺 産


三男坊が遺産を丸々引き継ぐことになったのは、大旦那が死んだとき
上の兄姉三人が三人とも死んでしまっていたので仕方が無いのだが、
他の親類は「まさかこんなことになるとは」とがっかりしてしまった。
こぞって嫌がるのは三男坊が商売に大変疎い楽天家の浪費家だからだ。
だいたいの者が皆、口を揃えて「温泉宿は当代で畳んだ方がいい」と
寝たきりだった大旦那にはずっと言い続けていたのだが…
大穴を狙ってみる価値はある、と。結局それが遺言になってしまった。
確かに、もともと大旦那が一発狙って掘り当てた温泉だ。
いらない生真面目、いる不真面目が口癖だった大旦那は、
実は三男坊の破天荒な生活ぶりに、若い自分を見ていたようだった。
又、意外なことに三男坊には大変美人だが恐ろしい嫁がおり、それはもう
身も心も夫に捧げる惚れ様で、少しでも三男坊の気が浮つこうものなら
その美顔を鬼の面に変えて火でも吹こうかという怒り様を見せるのだ。
この女に捕まってからと言うもの、三男坊も大分おとなしくなり、
一見、確かに心を入れ替えて労働に精を出すようにも、皆思えてきた。
大事にならなければいいが…と。結局三男坊の世継ぎは認められた。

時にそのほんの少し前、三男坊は大旦那と何やら相談事を交わしていた。
鬼女の見てない所で、こっそり裏山の井戸を調べて来い。
夜湯煙りに隠れて、一人で向かえ。
俺が長年秘密にしてきた、お前宛ての特別な遺産が隠してある。
了見の狭いお前の嫁には、俺の崇高な精神はちと理解できんだろう。
向えば意味は自ずと分かってくる。くれぐれも一人で行くんだぞ。

あたりを見渡し、三男坊は裏口から忍び足で外へ出た。
裏の山には、昔親父に何度か連れられた。あそこに遺産が。大変だ。
ただ、俺をまだ疎ましく思っている親類たちはともかく、
ばっちり俺を支持してくれる、あの女房も連れるなとはなぜだろう。
へたに知られたらそんなにマズイのか…と…あっお前。げ。げげげ。
げ。っていう顔をしてますね。私が気付かないとでもお思いですか。
こそ泥を取り押さえるが如く、嫁は三男坊をあっさりと捕まえた。

それで、遺産とは何なんです。
俺が知りたい。とにかく井戸に行ってみるしかない。
母親にも話した事がないと言っていた。恐らく大変な値打ち物だ。
お父様にも良い所がありましたのね。金かしら、宝石かしら。
この井戸だな。中は結構深そうだ。どれ、俺が行って見てくるから、
居残って待っていろ。危険な罠があるかもしれん。
許しません。死ぬ時は一緒です。もちろん宝物も一緒ですわ。

来た道に印をつけつつ、二人は奥へと進んで行った。
古遺跡のような通路はどうやら親父が造った物らしく、ずい分と深い。
遺産と呼べるものに辿り着く頃には、大分山を下ったようだった。

穴ですね…この突き当たりの壁の穴、怪しいですわ。
ああ。おそらくこれをのぞいた先に何かあるんだろう。どれ、俺が…
おっ。おおおおっ。これは…うん…親父め……しかし、参ったな…
私たちの宝物は、一体何でしたか。私にも見せてくださいな。
俺と親父の絆だ。これは俺以外、誰にも見せられん。さあ帰るぞ。
いいえ、そうはいきません。貴方の物は私の物でもあるのです。
もうやめてくれ。頼むからのぞかないでくれ。お願いだ。
あわててしまって、どうしたのです。どれ見せて御覧なさいな…


明け方早々、井戸は怒髪天を衝いた嫁の命令で埋められてしまった。
ただ、三男坊の心には、今でも穴の奥の光景が焼き付いているそうだ。
宝。そうだ、あれは全く、宝の山であった。


日おうごとに、温泉宿は繁盛していった。三男坊の必死の頑張りだ。
奇しくも、裏山の別の場所に、三男坊は新しい井戸を掘ったわけだが、
あまりのこっそりぶりに、今度はさしもの嫁も気付くことができなかった。
良い事だ。だからこそ、三男坊は頑張れるのである。


  遺産が何だったのか知りたいと?
  それなら、左から二文字目を、目を見開いて縦に読んで御覧なさい。





本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース