「 テニスがしたい 」


山口県立 滝川西高校 2年
三上 則康



休憩中。

「打ちてぇ」

「打ちゃええやん」

「出来んから言いよるんやろ」

「オーライ」

コートの隅で、淡々とした会話。


まさかだ。

「ほんとまさかやね。スマッシュ受けて骨折とか言って」

野間が俺の心の代弁者となってくれている。笑顔だけが邪魔だ。

「さすが織田って感じやんね。全国ベスト8だけあるわ」

俺が、県大の2回戦。【俺1−3織田】で迎えた5ゲーム目。

「やめてぇや。俺真面目に痛かったんやけ」

織田の破壊的なスマッシュを利き手首に受け、医務室から病院までたらい回されてから

「見たら分かる。その包帯はありえん」

もう1週間が経つ。

野間が、俺のミイラと化した右手首を見ながら、『織田キャノン』の話をする。

「だってあいつ、サーブ180km出ちょるんやろ?死ぬけ」

だからみんなは織田のフルショットを、畏怖の念を込めて『織田キャノン』と呼ぶのだ。

「野間ー。休憩終わり。ゲーム入るってよー」

石田が野間を呼ぶ。うちのダブルス1のペア。

「あいよー」

なんだかんだで、野間は中国大会ベスト8だ。

「ほいじゃね。三上、最後までおるんやろ?」

まだ節分が終わって間もなく

「一応。ブラシかけくらいなら出来るし」

動いてない身には辛い風が吹くけど

「やったらいっしょ帰ろうや。今日ワールド行くけん、そっちから帰るんよ」

自分だけ、コートから離れるのは嫌だった。

「わかった。でも俺今電車通やけぇ、琴芝駅までね」

「どうせワールドまでやし。んじゃ後で」

野間が1番コートに駆けていく。


コートの隅の金網を背もたれに、野間の試合を見る。

「ナイッサーブ!」

野間はサーブが得意で

「悪ぃ任せた!」

バックハンドが苦手だ。

「だぁっ」

「あー・・・ドンマイ。しゃーない」

前衛だった石田の判断ミスだけど、野間のカバーの範囲でもある。

「まじごめん。とりあえずサーブ入れてくけん」

そもそも粘り勝つタイプの野間はシングルス向きなのだ。

「オッケ。がんばろうぜ」

シングルスで落ち着いたときに出る野間のバックスライスは、思った以上に跳ねない。

「ナイッサーブ!」

「お。サービスエース」

思わず拳に力をこめると

「っ痛ぇっ」

指がかろうじて見える程度の右手首に、鋭い痛みが走る。

ゲームは、野間・石田ぺアが【6−4】で制した。


「結構際どかったやん。最後のゲーム」

国道沿いの歩道。野間はチャリを押しながら歩く。

「まこっつどんどん上手くなりよるよね。あれまずいわ」

1年で唯一、レギュラー決めに絡んでくる野々村弘樹は

「そうやなー。見よったけど、あいつボレー上手いよね」

『野々村』だから『まこっちゃん』。そして『まこっつ』に行き着いた。

「あー」

「あ?」

「お前さ、宮原さんとはどうなっちょるんよ」

途端に野間の表情がこわばる。

「どうなんよ?」

その反応が面白かったので、問い詰めてみる。

「・・びみょう」

怒っているような悲しんでいるような、いかにもびみょうな顔だった。

「はよせんと、俺が取るぞ。宮原さん」

確かに、あの女子テニスのキャプテンは可愛い。

「お前、佐波さんやなかったんか」

チャリのギアを無意味に変更しながら、野間が話を振ってきた。

「佐波綾子?・・・だって彼氏おるし」

「あれは意外やったなぁ」

俺も意外だった。

「あの佐波さんがガリ勉好みやったなんて思わんよ普通」

ひと夏明けたら、豊田という文系クラスの男子とくっついていた。


ワールドが近づく。

「つーことやけぇ」

野間は多分洋楽のCDでも借りるんだろう。最近洋楽にはまっているらしい。

「俺も宮原さんに立候補ね」

「・・・頼むわ」

「ただでさえライバル多いのに?」

俺が野間の代弁者になる。笑みを浮かべながら、下から見上げた。

「つーか、三上、お前今テニス出来んけ欲求不満なだけなんやろ?」

「・・・正しいかも」

右手がうずく。少しだけ動かすと、包帯と添え木の擦れる音がする。

今、俺の生活の主導権は左手が握っている。

「はよー治せよ」

元々両利きに近かったので、食事や勉強には差支えがない。

「おう」

ただ、テニスだけは。

筋力的に難しいし、何より、片手で出来るスポーツじゃない。


「そいじゃ、俺渡るけん」

交差点。野間は左の横断歩道を渡り、俺はそのまま右へ行く。

「おう、じゃぁの」

点滅する信号に急かされ、野間は走り去った。

野間の背中で、カバーに入ったあいつのラケットが揺れていた。

『ガットが切れたから』と、今日久しぶりに持ち帰るやつだ。


駅に着くと、部活帰りの中学生が固まっていた。

一目で分かる。ソフトテニス部。

学校指定のダサジャージに、硬式に比べるとどうしても大きさで見劣りするラケットカバー。

あの頃は、そんなの関係なかった。

テニスしてるってだけで格好よく感じられたもんだ。

まぁ、今でもその考えは変わってないけど。

「あー・・・」

思わず、ホームでサーブのフォームをしてみる。

「いってぇ!」


さらに2週間。

梅の満開期が近い。

「・・・っしゃぁ!」

相手のリターン中にネット際に詰め、ボレーで一気に叩く、いわゆるナイスショット。

「時間置いたらクセが抜けて逆に上手くなるって、あれホントなんか・・・」

ゲームカウント、【俺5−4野間】。チェンジサイド中。

「Mさんの話、本気やけんな」

天気は上々。

「え?は?マジ話!?」

調子も上々。

「お前にゃ負けねぇ」

「とりあえず負かす」


春、俺たち最後の全国予選が近い。







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