【傍】
覚えたての九九を読み返すようなたどたどしさで、僕は言葉を捜す。
瞳の奥の奥、涙腺の川も途絶え、
夕暮れの斜陽すら差し込まない暗闇に、
感動を忘れ、感情を恐れる、臆病な心の僕が縮こまっている。
黒いTシャツに、3年前に買ったジーンズ。
辺りは四角い。
心の僕は、長い長い望遠鏡を使って、外の世界を覗き見る。
誰も気づかない場所、網膜と脳裏の間から、ひっそりと。
僕が世界を凝視していることに、誰も気づかないことを祈りながら。
僕が世界を求めていることに、誰か気づくことを願いながら。
願いは叶わない。
祈りは届かない。
だから僕は言葉を捜す。
言葉たちは、四角の四隅の足元で待っていた。
習いたての漢字を書き連ねるような丁寧さで、僕は言葉を紡ぐ。
言葉たちに背中を押され、心の僕は、一歩、一歩、
長い長い廊下を、網膜に向かって歩く。
徐々に増す眩しさ。ろくに考えちゃいられない。
なんどもつまずきながら、言葉たちに連れられ、
そして飛び出す先には、涙腺の滝つぼ。
君を前にして、心の僕は落下する。
震える希望を言葉たちに託して。
あたたかな未来をその先に夢見て。
言葉たちが君の胸元にたどり着いた頃、
心の僕は涙と共に、やがて地球に染み込んだ。
そして、あとに続く無数の言葉たちが、
君の頬を必死にくすぐる姿を、
呆れながら見上げる。
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