「 机上の戦争 」
山口県立 滝川西高校 2年 宮原 雫
(2)
(そうやん。この席に座るんが2人だけなわけないし!)
考えられる事態ではあったが、しかし予想外だった。
「あのさー、あたし今」
里子に援軍を求めてみた。
「机上で戦争しよるんよね」
「くっ・・・これマジ上手いね」
「ピカソって誰って感じよ」
昼休み、購買のサンドイッチを食べ終えてから、音楽室に来た。
「で、くっ、これね。第3者」
里子を睨む。
「なんなん、笑いたきゃ笑いーや!」
「シズ、ダメ!あんたマジヘタ!面白い!」
先生の特別設計で、音響に定評のある室内に声が響いた。
「あんた、美術選択やけぇって・・・」
里子は同じクラスだけど、選択が違うので音楽は受けていない。
「ちょっと描けるけぇってね!笑いすぎやけ!」
「あ、ちょい待って!」
里子がアルプス山脈を指差す。
「何こいつ?」
覗き込むと、アルプスの左下部分に、どこか見覚えのある猫のマークがあった。
「これって・・・」
「ちーだ。ちーちゃん」
「うっそ」
去年、私たちと同じクラスだった、千佳。
「はー!?あれシズやったん!?」
千佳が、驚いたような、がっかりしたような表情をして
「ふ、ふっ、そか。あれ、シズやったんや」
その後大笑いした。
久しぶりにこの3人で話す。
「新しい出会いとか期待しちょったのに。運命的な」
あの頃は、毎日10通以上の手紙のやりとりをしてた。
「あそこ女子の席やん」
『ひょんなことから生まれる出会い』だとか、そんなのを期待する話はいつも盛り上がった。
「あー。なんだ」
だから今回の事も、相手を見てなんだかひどく納得してしまった。
「でも、そしたら・・・」
3人の息が合う。
「第3者は?」
事態は風雲急を告げる。
(なんこれ!?)
状勢は混乱を極めた。
(これは・・・ヤバいよねぇ・・・)
私の絵の上のアルプスの絵のさらに斜め右上に、新しい風景画が生まれていた。
『↑これどうよ? BY GOHHO』
『←んが うまい』
『↓コッチ スキー』
さらに、その斜め右下にも。こちらはもう風景ではなかった。
『バイ・よっちん☆』
『←カワイイ♪』
おそらく、この机に座るあらゆる生徒が『参戦』を表明したのだろう。
3人座れる長机の、私のスペースとされる部分は、もう半分近くが黒かった。
(こりゃもう、第3者の話どころやないわ・・・)
そして次の授業の時間
「わ・・・」
落書きは全て消されていた。
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